ほうとう:山梨県

ほうとう

ほうとう(餺飥)は、山梨県(甲斐国)を中心とした地域で作られる郷土料理。
2007年には農林水産省により各地に伝わるふるさとの味の中から決める「農山漁村の郷土料理百選」の中の一つに選ばれている。
小麦粉を練りざっくりと切った麺を、野菜と共に味噌仕立ての汁で煮込んだ料理の一種である。一部地域では小麦粉以外の穀物の場合もある。
また、すいとん的な小塊も地域によっては見られることから、必ずしもうどん[1]状の長い形であるとは限らない。
一般のうどんのように煮た麺に各種素材や味噌などの調味料を加えた調理法を取ることも希である。
なお、富士北麓の郡内地方にはほうとうと同一の粉食文化の起源を持つ郷土料理である「吉田のうどん」が存在する。
また、県外一般には、「ほうとう鍋」と呼ばれる料理もある。
呼称は「ほうとう」が一般的である。
一部地域では異称として「おほうとう」や「ニコミ(ニゴミ)」(山梨県内郡内地方の一部)、
「ノシコミ(ノシイレ)」(山梨県内河内地方)と呼ぶ場合もある。

大豊 山梨県南都留郡山中湖村山中865-919
営業時間:昼の部 11:30~14:00 夜の部 17:30~21:00(ラストオーダー)ランチ営業、日曜営業 定休日:月曜日

 

ほうとう の調理・具材

ほうとうの生地は木製のこね鉢(民俗語彙では「ゴンバチ」)で水分を加えた小麦粉を素手で練り、
出来上がった生地はのし棒を使って伸ばされ、折り重ねて包丁で幅広に切り刻む[2]。うどんと異なり、
生地にはグルテンの生成による麺のコシが求められず、生地を寝かせる手法は少ない。また塩も練り込まないため、
麺を湯掻いて塩分を抜く手順が無く、生麺の状態から煮込むところに特色がある。その為、汁にはとろみが付く。
現在では山梨県を中心としてほうとう専用の生麺が流通しているために、それを使用する場合も多い。
家庭用の市販品はうどんより幅広く、やや薄い形状である。料理店ではボリューム感を出すために極広厚の麺を使うことが多い。
汁は、味噌仕立てである。その中でも具のカボチャを煮崩して溶かしたものが美味であるとされる。
出汁は煮干しで取り、家庭では出し殻もそのまま入れられる。具は野菜が中心となり、
夏にはネギ、タマネギ、ジャガイモなど、冬ではカボチャやサトイモ、ニンジンや白菜、
シイタケ、シメジなどのキノコ類を入れる。豚肉、鶏肉などを入れる場合もある。
ほうとうは野菜類のビタミン類や繊維質に特に富み、小麦粉や芋類によるデンプン質、
味噌によるタンパク質などバランスに優れた料理といえる。
大鍋で作る事が多いので、余ったほうとうは再び翌日の食卓に上る。
とろみが出て味も熟れてくるので、この「沸かし返し」を作りたてより好む人も多い。

ほうとう不動 河口湖北本店 山梨県南都留郡富士河口湖町河口707 営業時間:11:00~19:00 年中無休

 

冷やしほうとう=おざら

「冷やしほうとう」とも呼べる料理で、ざるうどんに類似している。ほうとうの麺を冷水でさらし、少し温かい汁につけて食べる。
つゆは一般的に濃いめの味で、野菜や肉類などの具材が入っている。
元々は甲斐市敷島町付近の郷土料理であったが、1970年頃に甲府市内のほうとう専門店が夏の料理として売り出した。
煮込み料理であるほうとうは真夏には売れ行きが落ちるため、その後多くのほうとう専門店で広まった。
ほうとうは通年メニューとして供されるが、おざらは夏期のみのメニューであることが多い。
 

小豆ぼうとう

ほうとうの麺に適度な粘りのあるぼたもちのような小豆餡を乗せたもの。
山梨では「こなぼうとう」とも呼ばれる。汁粉の中に、餅や白玉の代わりにほうとうの麺を入れたものと考えることもできる。
小正月の小豆粥と同様にハレの日に健康を願う食べ物として位置づけられており、北杜市須玉町など一部の地域で祭日に食されている。
類似のものに大分県の郷土料理「やせうま」がある。
 

ほうとうの発生と広まり

ほうとうの発生地や時期の定説はなく、後述する様々な説が唱えられている。
日本列島においては縄文時代から粉食文化が存在し、弥生時代以降には穀物の粒食が一般化することから、
弥生時代以降の考古遺跡においては製粉具の出土が減少し、鎌倉時代以降になって再び粉食習慣が復活、
石臼などの製粉具も出土しており、山梨県内では南アルプス市の二本柳遺跡から戦国時代の石臼が出土しており、
考古学的には中世後期段階で「ほうとう」の起源にあたる麺類が食べられていたと考えられている。
山梨県(甲斐国)では、近世に養蚕の普及による桑畑化で田地が集約され、裏作での麦の栽培が一般的となったことから、
おねりやおやきなど粉食料理の体系が発達し、ほうとうはその中でも各種野菜や汁で増量されるために小麦の使用量が少なく経済的であり、
また味も良いことから広まったといわれる。日向国(現在の宮崎県)の修験者である野田泉光院は文化12年(1815年)に甲斐を訪れているが、
泉光院の『日本九峯修行日記』には一連の粉食料理とともに登場し、「名物」であったことも記されている。
また山梨県東部の郡内地方では、山間部であるため寒冷な気候で平坦地に乏しく、富士北麓では富士山の伏流水の季節変動が激く、
水利に乏しい溶岩台地が広がっているため、全般的に米の栽培が困難であった。
一方、麦は富士北麓では流水を用いた水掛麦による栽培が行われており、ほうとうなどの粉食料理が根付いた。

ほうとう松木坂 山梨県北杜市小淵沢町3107-1
営業時間:11:00~21:00(20:30オーダーストップ)定休日:月曜(夏季無休7/20~8/31)

 

ほうとうの語源

「餺飥」語源説
現在広く知られる説として、「ほうとう」の名は「餺飥(はくたく)」の音便したものであるとされる。
「餺飥」は奈良時代の漢字辞書である『楊氏漢語抄』(逸書。平安時代中期の古辞書『和名類聚抄』に引用)に見え、
院政期の漢和辞書である『色葉字類抄』に既に「餺飥 ハクタク ハウタウ」として登場するから、
この頃にはもう「はうたう」という語形になっていたことがわかる。
このように、「ほうとう」は「うどん」以上に歴史のある食品であるが、
伝来時期は異なるとはいえ、「ほうとう」が「うどん」と同じく中国から伝来した料理の流れを汲むものであることは間違いない。
現代の陝西方言でワンタンのことを「餛飩」と書いて「ホウトウ」と発音することは、一つの参考となるようである。
ハタク・ハタキモノ語源説
山梨県の郷土民俗研究の立場からは、「ほうとう」の呼称は江戸時代中期の甲府勤番士日記『裏見寒話』において見られ、
小麦粉で作った麺に限らず、穀物の粉を用いた料理全般に用いられていることが指摘されている。
穀物の粉を「ハタキモノ」と呼び、粉にする作業を「ハタク」と呼ぶ事から、
「ほうとう」の語源はハタク、あるいは穀物の粉を意味するハタキモノが料理名に転用されたのが妥当と考えられている。
「餺飥」語源説、ハタク・ハタキモノ語源説、これら二説についての見解
「餺飥」語源説に関しては、戦後の食文化に言及された郷土研究文献にもほうとうの語源に言及したものが少なく、
「ほうとう」の語源は、観光食として広く喧伝されるようになってから、
信玄起源説と関係して広く展開され、一般化したと位置付けられている。
ほうとうに関係する由来伝承は信憑性が薄く、観光食化する過程でさまざまな歴史的知識に基づき、
語源の推論が重ねられて由来伝説が形成されたものである、とするのが民俗学的見地からの捉え方である。
しかし、日本語学的見地から見た場合、
動詞「ハタク」の文献上の初出が室町時代中期の古辞書『温故知新書』(1484年 / 文明16年)と比較的遅いのに対し、
「ホウトウ」は前記『色葉字類抄』以外にも、平安時代後期の『枕草子』や南北朝時代〜室町時代初期の古辞書『頓要集』に
「はうたう」「餺飥 ハウタウ」として見えており、「ハタク」から「ハウタウ」の称が生まれた、
とすると時系列的に矛盾する、という事実も存する。
その他の説
同音の「宝刀」や「放蕩」などを語源とする説も存在する。
「宝刀」については「信玄が自らの刀で具材を刻んだ」といった武田信玄に由来するとする俗説が広く流布している。
これは戦後、山梨県において歴史的資源を活かした観光業が主要産業化する過程で形成された現代民俗であり、
言語学的見地からは否定されている。
「放蕩」については「空いた手間と時間で放蕩することが出来るために、
ほうとうという名称になった」とされるが、出処不明であり根拠は全くない。
 

ほうとうと山梨県

山梨県内では現在でも日常的な料理として食されている[要出典]が、食生活の変化や若年夫婦の核家族化で、
一般家庭で食卓に上る頻度は比較的下がっている(後述)。
一般的に、料理店では容器が1人分ずつ鉄鍋で出てくることが多く、鍋料理や鍋焼きうどんの様な体裁で饗される。
よって、県外の人から「うどんの一種」または「鍋料理」と認識される場合がある。
しかし、県内の家庭では1人分ずつ小鍋で作ることは希で、家族分を大鍋で作り、どんぶりか味噌汁椀に盛られ一食分の主食として供される。
味噌汁のごとく、汁物として白飯に添えられることもある。
よって、山梨県内では鍋料理との認識は薄く、うどんと同一のものとも認識されていない。
あくまでも固有の料理、あるいは食事と捉えられている。
前記の通り、山梨県内では「ほうとう」はあくまで「ほうとう」であって、
一般に言う「うどん」とは異なるものとして認識している(名古屋人の「きしめん」に対する意識と類似するものがある)。
粉食文化の浸透から、山梨県ではほうとう以外にも、夏食べる冷麦を「おざら」、冬食べるうどんを「ゆもり」と特に呼ぶことがある。
また、いわゆる「吉田のうどん」は、「ほうとう」とは全く異質の麺料理である。
山梨県内ではほうとうにカボチャを入れることが多く、全国的に見られる冬至のカボチャの時にもほうとうで食する。
かつては麺を打つところから家庭で行い、農家の労働力でもあった主婦にとって調理法が簡易であることから、
大鍋でたくさん作り大家族の食を賄うことができる日常食として食された。
麺の加減や煮込む具材を応用した自己流の作り方があり、家々毎に「おふくろの味」の個性表現をすることができた。
食べきれず余って翌日に沸かし返した「ほうとう」は、とろみが出て味が熟れてくるので、作りたてよりそちらを好む人も多い。
日常食としての「ほうとう」は麺よりも野菜の量が多く、
対して小麦粉を消費する「ウドン」は特別な日(モノビ)や来客時に振舞われる贅沢な料理であると意識されており両者の区別は明確であった。
戦後には高度経済成長に伴う産業構造の変化で農業が衰退し、米食が一般化すると、日常食としての地位は下がる。
現在でも山梨県地方においては献立のひとつとして食され続けてはいるが、スーパーマーケットにおいて固形出汁や既製品の味噌を始め、
ほうとう向けの幅広麺が販売されていることから、自家用に麺を打つことも少なくなり、観光食ほうとうの影響も受け、
製法や味も画一化されている傾向にあり、日常食としての在り方は変化している。
現在では外食産業としてほうとうを扱う店が数多くあり、
一般的なほうとうのみを扱う店や、小豆ぼうとう(こなぼうとう)や汁のベースにコチュジャンなどを使用したもの、
また家庭では通例ほうとうに入れないカキやスッポン、カニを入れる店など、多彩である。

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